岩歌ユリカ
私のお姉ちゃんの名前はヒマリ。
向日葵の名前から考えたんだよ、とお母さんが言っていた。
明るくて家事もできるお姉ちゃんがある日、病死した。
悲しかった。あんなに元気だったお姉ちゃんが……。
気が付くと近くの神社に来ていた。
神様は、お姉ちゃんを生き返らせることはできないみたい。
でも、私の孤独を埋められる、『代わり』なら――
鹿歌よしなり
鹿だったころの記憶は、少しだけ憶えている。
いきなり神様が現れて、オレたちを人間にするとか、朱華の家に案内するとか、わけのわからないことを言い出して……
正直腹が立った。
1つだけ、いいことがあったとすれば。
「料理」を作れば、主が喜んでくれるということ。
人間というのも悪くないのかもしれんな。
鹿歌せれな
鹿だったころの記憶は、少し憶えているわ。
人間にあこがれていたあたしの前に神様が現れたの。
半分人間になったけど、1つだけ嫌なことがあるのだわ。
毎日毎日、悪夢を見るの。
人間のことが好きなあたしに、人間が悪口を言ったり、叩いたり、角を折ったりするの。
苦しいけど、どうにかできないかしら?
洞歌徳光
いじめられた。心当たりはないのに。
ホワイトボードに大きく書かれた悪口。ゴミ箱に入れられた靴。
いつもクスクス笑う女子たち。今日はどうやっていじめるか、と大声で話す男子たち。
いつしか学校に行くのをやめた。
僕は嫌われ者だった。神様に会うまでは――
神様はユリカという女の子を紹介してくれた。
よしなりという男と、せれなという女も。
幸いなことに、ユリカたちからは嫌われていない。
もうあの学校に戻ることはない。いじめられることも、きっとない。